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限界利益がわかると「この受注を受けるか」が見える|社内SEのための原価管理

社内SEの面接で、こんな質問が来ることがあります。

「うちに、1個600円で作ってる製品があって、原価が800円なんです。これ、追加で注文が来たら、受けるべきだと思いますか?

技術の話なら答えられる。でも、この手の「業務の数字」の問いで詰まる人がすごく多いです。
客先常駐のSES・SIerで腕を磨いてきた人ほど、ここでつまずきます。コードは書ける。でも「その会社が、この注文を受けて儲かるのかどうか」を判断する物差しを持っていない。

僕は今、地方の中小製造業(アルミダイカストの工場)で、ひとりでDXの内製を担当しています。前職は客先常駐のSES。移ってきて、受注一覧や製品別の利益表をシステムにするとき、裏にある「儲けの式」を知らないと画面の意味がわからない、と痛感しました。

その式の中心にあるのが、この記事のテーマ「限界利益」です。

ここがポイント

「限界利益」は製造業だけの言葉ではありません。仕入れ・在庫・受注を持つ事業会社なら、形を変えて同じ考え方が効きます。本記事は製造業を一番濃い例として使います。

この記事を読み終えると、冒頭の「600円・原価800円」の問いに、根拠を持って答えられるようになります。

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目次

限界利益とは「その仕事で、固定費の前に残るお金」

まず一言で。限界利益とは「その仕事を1つ受けたとき、固定費を払うために残るお金」です。式はこれだけ。

flowchart LR
    A["売上"] -->|"− 変動費"| B["限界利益"]
    B -->|"− 固定費"| C["営業利益"]
    style B fill:#e8f5e9,stroke:#388e3c
    style C fill:#fff3e0,stroke:#f57c00

変動費というのは「その仕事を受けたことで、これから増える費用」です。具体例で見ましょう。ある製品を 100万円 で売ったとして、直接かかった費用がこうだったとします。

スクロールできます
直接かかった費用金額
アルミ材料費40万円
ガス代・電気代10万円
外注加工費20万円
梱包・配送費5万円
合計(変動費)75万円

このとき、

限界利益の計算

売上 100万円 − 変動費 75万円 = 限界利益 25万円

この 25万円 が限界利益です。つまり「この仕事を受けたことで、会社に25万円残った」。この25万円を使って、社員の固定給・家賃・設備リース代・借入返済などの固定費を払っていきます。

ここで一番大事なポイント。
引くのは「その仕事を受けたことで増える費用だけ」。作っても作らなくても出る費用(固定費)は、ここでは引きません。

社内SEが作る「製品別の利益表」や「受注一覧の利益列」は、たいていこの限界利益を映しています。画面の裏にこの式があると知っているだけで、仕様の意味がスッと入ります。

変動費と固定費の見分け方(ここがズレると全部ズレる)

限界利益を正しく出すカギは「変動費」と「固定費」の見分けです。仕事量が増えると一緒に増えるか? で分けます。

スクロールできます
費用変動費?理由
アルミ材料費作る量が増えれば増える
外注加工費外注に出すほど増える
ガス代・電気代生産量が増えれば増える
梱包費・配送費出荷すれば発生する
不良による再製作費その仕事で発生する
社員の月給基本は固定費
家賃・設備リース代×売上がなくても発生する

ガス代・電気代は、本当は「固定部分」と「変動部分」が混ざった混合費です。最初から完璧に分けようとせず、まずは「作るほど増えるか?」でざっくり振り分ければ十分です。

社内SEとしてここが効くのは、「変動費」をシステムでどう持つかです。製品マスタに変動費の内訳(材料・外注・エネルギーなど)を持たせておくと、受注ごとに「売上 − 変動費」を自動で出せる。逆にここを固定費とごちゃ混ぜで持つと、後で出てくる「受注判断」が全部狂います。

受けていい仕事・ダメな仕事は、限界利益の符号で決まる

判断はとてもシンプル。限界利益がプラスかマイナスかで分かれます。

flowchart TD
    A["仕事の打診が来た"] --> B{"売上 − 変動費
= 限界利益は?"} B -->|"プラス"| C["固定費回収に貢献する
→ 受ける価値あり"] B -->|"マイナス"| D["作るほどお金が減る
→ 原則 受けない"] style C fill:#e8f5e9,stroke:#388e3c style D fill:#ffebee,stroke:#c62828

例1:受けてもいい仕事

計算式

売上:100万円 / 変動費:80万円 → 限界利益:+20万円

最終利益(固定費まで引いた後)では赤字に見えるかもしれません。でも、この 20万円は固定費回収に貢献しています。仕事がない時期で、工場や人に空きがあるなら、受ける意味があります。

例2:受けてはいけない仕事

計算式

売上:100万円 / 変動費:110万円 → 限界利益:−10万円

これは危険。作った瞬間に10万円損しています。固定費回収どころか「作るほど現金が減る仕事」。原則、受けないほうがいいです。

「率」で見る:限界利益率と損益分岐点

限界利益を売上で割ると、限界利益率になります。

限界利益率

限界利益率 = 限界利益 ÷ 売上 = 25万円 ÷ 100万円 = 25%

意味は「100万円売ると、25万円が固定費回収に使える」。売上が「どれだけ会社に残りやすいか」を表す率です。同じ100万円の売上でも、率が違うと貢献度はまるで違います。

スクロールできます
売上変動費限界利益限界利益率意味
100万円90万円10万円10%ほとんど残らない
100万円75万円25万円25%そこそこ残る
100万円60万円40万円40%かなり残る

そして率がわかると、「いくら売れば赤字を脱出できるか(損益分岐点)」が出せます。

損益分岐点

損益分岐点売上 = 固定費 ÷ 限界利益率
固定費 500万円 ÷ 限界利益率 25% = 2,000万円

つまり月に2,000万円売って、ようやく利益ゼロ。2,000万円未満なら赤字、超えた分が黒字です。率が高い会社ほど、少ない売上で黒字に届きます。

スクロールできます
限界利益率損益分岐点売上
固定費500万円のとき
10%5,000万円
25%2,000万円
40%1,250万円

社内SEが「損益ダッシュボード」を作るとき、結局この損益分岐点ラインを引いて「あと何%落ちたらトントンか」を見せたい。画面の意図がわかると、作るものが変わります。

損益分岐点と限界利益率の公式な定義は、中小企業基盤整備機構(中小機構)の「損益分岐点の計算方法と経営改善に向けた活用方法」も参考になります。

社内SEが一番ハマる「平均原価のワナ」

ここからが、エンジニアに一番刺さるところ。冒頭の「600円・原価800円」の問いの答えです。

「1個あたり原価」には、実は固定費が混ざっています。固定費は受注のあるなしで変わらないので、平均原価で判断すると間違えます。

平均原価800円・追加注文600円のとき
  • 内訳:変動費500円 + 固定費の按分300円 = 平均原価800円
  • × 平均原価で見る:600円 < 800円 → 赤字だから断る
  • ○ 増分で見る:600円 − 変動費500円 = +100円 → 固定費回収に貢献、受ける価値あり

固定費の300円は、この注文を受けても受けなくても、もう発生しています。だから判断に入れてはいけない。見るのは「この注文で増える収益と、増える費用だけ」。これがまさに限界利益の考え方です。

ただし、常態的にこの値段だと固定費を回収できません。これはあくまで「空いている設備や時間を埋める」ための短期判断です。

エンジニア目線で言うと、これは if 文の条件をどこに置くかの話です。「平均原価 < 売価 なら受ける」と書いてしまうと、本来取れる注文を機械的に弾く。条件は「変動費 < 売価」に置くのが正しい。社内SEがこのロジックをシステムに正しく仕込めるかどうかで、現場の意思決定が変わります。

もう一歩:埋没原価と機会費用(受注判断の本丸)

受注判断で、限界利益とセットで覚えておきたい考え方が2つあります。

埋没原価(サンクコスト)は判断から外す

すでに払って、もう戻ってこない費用を埋没原価といいます。これは受注判断から外します

考え方

「設備をもう買ったから、その分も回収しないと受けられない」
→ ❌ 設備代は払い済み。受ける・断るで金額は変わらない=判断に関係ない

判断に関係するのは「この受注を受けると、これから増えるか減るか」だけ。過去に払ったお金は、今日の判断を変えません。

機会費用:満杯のときは「諦める仕事」も費用に入れる

工場(や人の手)が満杯のとき、ある仕事を受ける=別の仕事を断ること。このとき「諦めた仕事の限界利益」を機会費用として考えます。

  • 空きがあるとき:機会費用ゼロ。限界利益がプラスなら受ける
  • 満杯のとき:受けると別の仕事を断る=その限界利益が機会費用

そして価格交渉の「守りのライン」が下限価格です。最低受注価格(下限価格)= その製品の変動費。変動費を下回る価格は、作るほど赤字(限界利益マイナス)なので原則NG。変動費を上回るなら限界利益はプラスなので、状況次第で受ける余地があります。

flowchart TD
    A["受注の打診"] --> B["その仕事で“増える”収益と費用だけ拾う"]
    B --> C{"増分収益 − 増分費用 > 0 ?"}
    C -->|"プラス"| D["受ける価値あり
(空きがあれば)"] C -->|"マイナス"| E["受けない
(作るほど赤字)"] style D fill:#e8f5e9,stroke:#388e3c style E fill:#ffebee,stroke:#c62828

社内SEが受注管理システムを作るなら、この4点(限界利益の符号・埋没原価は無視・平均原価でなく増分・満杯時の機会費用)を「判断ロジック」として表現できると、ただの入力フォームが意思決定を助けるツールに変わります。

まとめ:この1枚だけ覚える

この1枚だけ覚える
  • 売上 − その仕事で増えた費用(変動費)= 限界利益
  • 限界利益がプラス → 固定費回収に貢献する仕事(受ける余地あり)
  • 限界利益がマイナス → 作るほど会社のお金が減る仕事(原則受けない)

受注判断のコツは4つだけ。

  • 平均原価ではなく、増える費用(変動費)で見る(平均原価のワナ)
  • 埋没原価(払い済みの費用)は判断から外す
  • 満杯のときは、諦める仕事=機会費用も考える
  • 変動費を下回る価格は原則受けない(下限価格)

「Reactできます」は山ほどいる。でも「御社のこの注文、平均原価だと赤字に見えますが、変動費で見れば限界利益がプラスなので、空き枠を埋める分には受けて大丈夫です」と言えるエンジニアは、ほぼいません。
技術はもう持っています。あとは会社の数字を読めるようにするだけ。それが、客先常駐から社内SEへ抜ける一番の近道です。

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よくある質問(FAQ)

限界利益と営業利益はどう違う?

限界利益は「売上 − 変動費」で、固定費を払う前に残るお金です。営業利益はそこからさらに固定費を引いた、会社全体の最終的な儲け。受注を受けるかの判断には限界利益を、会社が黒字かを見るには営業利益を使います。

赤字に見える注文を受けてもいいって本当?

平均原価で見ると赤字でも、変動費を上回っていれば限界利益はプラスで、固定費の回収に貢献します。空いている設備・時間がある短期なら受ける余地あり。ただし常態化すると固定費を回収できないので注意です。

社内SEがこれを知ると何が変わる?

受注管理や製品別利益のシステムを作るとき、「平均原価で弾く」のではなく「変動費で判断する」正しいロジックを仕込めます。画面の意図がわかるので仕様の“なぜ”に答えられ、改善提案ができます。

製造業以外でも使える?

使えます。仕入・在庫・受注を持つ事業会社なら、「売上 − その取引で増える費用 = 限界利益」の考え方は共通です。本記事は製造業を濃い例にしているだけです。

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この記事を書いた人

やまとのアバター やまと DX推進者

元工場・自衛官の社内SEです。
毎日ひたすら開発とブログ記事を書いてます。

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