「DXを進めてくれ、AIで効率化できないか」と言われて、固まった。
現場あがりで、プログラミングの実務経験もほとんどないまま、IT環境がほぼ整っていない製造業の現場で「DX推進担当」を任される。そんな立場になったとき、最初にぶつかるのは「で、何から手をつければいいんだ」という壁です。
この記事では、製造業でDXを未経験から任された人に向けて、ツール選びより先に必要な「作業の言語化」という第一歩を、現場で遠回りしてきた目線で解説します。
やまと私は静岡の地方都市にある地方中小の製造業(アルミダイカスト)でDX推進担当をしています。サイバー大学で情報技術を学び、SES企業を経てこの現場に入りました。紙やバラバラのExcelしかなかった環境で、データ整備からダッシュボード開発まで一人で立ち上げてきた経験をもとに書きます。
- 自動化・AI活用の第一歩は、ツール選びではなく「自分の作業を言葉にすること」
- 向く作業は「繰り返し・パソコン上で完結」、向かない作業は「判断責任が重い・機密が多い・手順が未確定」
- うまくいかない原因は指示の悪さより、作業がまだ言葉になっていないことが多い
- 進め方は「棚卸し→言語化→小さく試す」の順番を崩さない
- APIキーや機密情報は渡さない。確認の仕組みは自分を守るためにある
結論から言うと、派手なツールの話は後回しでかまいません。まずは「自分が毎日やっていること」を一度ぜんぶ書き出すところから始めます。
なぜ「何から始めれば」でつまずくのか
最初に言っておきたいのは、何から手をつけるか分からないのは、あなたの理解力の問題ではないということです。
理由はシンプルで、毎日やっている作業ほど、頭の中で自動化されていて言葉になっていないからです。5年、10年と同じ仕事をしていると、手順を意識せずこなせるようになります。便利な一方で、それを誰か(人でもAIでも)に渡そうとした瞬間に「あれ、自分は何をどの順番でやっているんだっけ」と詰まる。
AIに「この作業をやって」と頼んでも思った結果が返ってこないとき、たいていは指示が悪いのではなく、作業そのものがまだ言葉になっていないことが原因です。
ツールから入ると、なぜ失敗しやすいのか
世の中には便利なツールが山ほどあります。生成AI、RPA、ノーコードツール。どれも強力です。
でも、自分の作業が整理できていない状態でツールから入ると、「高機能なのに使いこなせない」「結局手作業に戻った」となりがちです。道具が悪いのではなく、渡す中身(手順)が固まっていないだけ。順番の問題なんですよね。
自動化・AIが向く作業/向かない作業
では、どんな作業から手をつけるといいのか。先に向き不向きを整理します。
向いている作業
| 作業 | 向いている理由 |
|---|---|
| 定例レポート・日報/週報の下書き | フォーマットが決まっている |
| データの集計・転記 | 手順が固定化しやすい |
| メール・問い合わせの要約 | 要点抽出はAIが得意 |
| 議事録からのToDo抽出 | 要約・整理と相性が良い |
| 情報収集・下調べ | 検索と要約に向く |
共通点は「毎回ほぼ同じ流れ」で「パソコン上で完結する」こと。ここが自動化の入口です。
向いていない(最初から任せきりにしない)作業
- 判断責任が重いもの(最終的な意思決定)
- 機密情報・個人情報を多く含むもの
- 手順がまだ固まっていないもの
- 人間関係の微妙なニュアンスが要るもの
ここは「AIに全部任せる」ではなく、人が確認する前提で一部だけ任せるのが現実的です。「全自動」を狙うと、かえって確認に時間を取られます。製造業のDXでも、いきなり大きな仕組みを狙わず小さく始める考え方は、完璧なシステムより、使われる小さなツールを優先した話でも書いています。


自動化より先に来た「作業の言語化」という準備
ここが、私がいちばん遠回りして学んだところです。
IT環境がほとんど無い現場では、データが紙やバラバラのExcelに散らばっていることが珍しくありません。それをいきなりシステム化しようとしても進みませんでした。先に必要だったのは、「今この作業を、誰が・何を見て・どういう順番でやっているか」を一度ぜんぶ言葉と図に落とすことでした。
地味です。派手なAI活用とは程遠い。でも、ここを通ったあとは、AIに頼むにせよ自分でツールを組むにせよ、驚くほどスムーズになりました。生成AIをどう使ったかは生成AIがあったから、一人でもDX推進できた話にもまとめています。


入社して最初にやったのは、現場でどんなデータを、どうやって取っているかの確認でした。見てみると、思っていた以上に紙で記録しているデータが多くて、整理整頓もされていない状態。「まずこれを整理しよう」と思ったんですが、ここで手が止まりました。
データ自体はある。でも、どう並べればいいのか分からない。表を作っては「なんか違うな」と消して、また作り直す。これを何度も繰り返しました。
あとから分かったのは、これは並べ方のセンスの問題ではなく、「その作業が何のために、どういう順番で行われているか」を、自分がまだ言葉にできていなかったということでした。元データがバラバラだったというより、自分の頭の中が整理できていなかったんですよね。
今日からできる3ステップ
特別なツールは要りません。紙とペン、あるいはメモアプリで始められます。
「出社してから退勤するまで、何をしているか」を時系列で書き出します。最初は雑でかまいません。繰り返し発生する・パソコンで完結する・時間がかかっている作業に印をつけていきます。
選んだ作業を「このメモを読めば他人が同じ作業をできる」粒度で書きます。最初から完璧でなくて大丈夫。普段の自然な日本語で、まず一度書き切るのがコツです。
書いた手順をもとに、まずは一度AIや簡単なツールに通してみる。期待どおりなら、その手順を保存して次回から使い回す。手順をAIに覚えさせて短い合図で呼び出す仕組み(生成AIの「スキル」機能など)もありますが、それは手順が固まったあとの話。順番を逆にしないことだけ意識すれば十分です。
任せるほど大事になる「渡してはいけない情報」
便利さと引き換えに、注意点も正直に書いておきます。
- APIキーやパスワードはチャットに直接貼らない。設定する「場所」と「手順」だけAIに聞き、実際の入力は自分の手で行う
- 会社名・顧客名・契約内容・売上などの機密情報は入れない。利用規約や社内ルールを確認してから扱う
- 外部にデータを学習させない設定になっているかも、一度確認しておくと安心
このあたりを面倒に感じても、確認の仕組みは自分を守るためのものです。慣れるまでは確認しながら使うのをおすすめします。DXやAI活用の全体像については経済産業省「産業界のDX」やIPA(情報処理推進機構)のDX関連情報も参考になります(※制度や資料は更新されるため、公式の最新情報を必ず確認してください)。
会社のPCにツールを入れられない場合は?
決められたソフトしか使えない職場もあります。その場合でも、考え方(作業の言語化)はそのまま個人の作業に活かせます。家計や予定の管理、調べ物の下書きなど、業務外で練習しておくと、いざ職場で解禁されたときに動き出しが早くなります。
本当に身につくのは「自分の仕事を言葉にする力」
最後に、この記事でいちばん伝えたいことを。
作業をAIに任せるには、自分の仕事を説明できる必要があります。つまり鍛えられるのは、ツールの操作スキルというより、何をやっているかを分解する力、手順を言葉にする力、良い結果と悪い結果を見分ける力、任せる部分と人が見る部分を分ける力です。



現場あがりで未経験だった私が、なんとかDXを前に進められているのも、結局はここを地道にやってきたからだと思っています。遠回りした経緯は高卒で就職して兼業学生からSEになった話にも書きました。
AIに仕事を奪われるかを心配する前に、自分の面倒な作業を一つ言葉にしてみる。そこからで十分です。未経験でも、現場の経験があるあなたには「何が大事か」を判断する土台がすでにあります。
よくある質問
- DX未経験で、何の勉強から始めればいい?
-
まずツールより「自分の作業の言語化」から。作業を整理できてから必要なツールを学ぶ方が、結果的に定着します。
- AIに任せて大丈夫な作業の線引きは?
-
繰り返し・パソコンで完結・機密を含まない作業は任せやすいです。判断責任が重いものは、人が最終確認をする前提にしましょう。
- 会社のPCにAIツールを入れられない。意味ある?
-
考え方は個人の作業で練習できます。作業の言語化に慣れておくと、職場で解禁されたときの動き出しが早くなります。
- 一人でDXを任されて不安です。
-
全部を一度にやろうとせず、1作業の言語化から。小さく回して成功体験を作るのが、結局いちばん早いです。
この記事のまとめ
- 自動化・AI活用の第一歩は、ツール選びではなく「作業の言語化」
- まずは棚卸し→言語化→小さく試す、の順番を守る
- 向かない作業(判断責任・機密・手順未確定)は人が確認する前提で
- APIキー・機密情報は渡さない。確認の仕組みは自分を守るため
- 鍛えられるのは操作スキルより「自分の仕事を言葉にする力」
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